タマネギ型とかチューリップ型と呼ばれるスタイルのリューズは、クロノスイス製品の特徴の一つでもあります。しかし、タイムマスターの「巨大」タマネギは、従来のクロノスイスの全体のバランスをとった控えめなリューズとは違った役割を与えられています。

　しかし、デカ厚・普通の大型リューズのダニエルジャンリシャール・クロノスコープなんてのは、それでもバランス的に破綻する。なぜだろうというと、大きいだけでは、全体に大柄というか間延びした印象になるだけだからです。

　またパネライ引っぱり出しますが、パネライは、ここに見るからに理解しやすい防水性の保持という機能的な裏付けを与えているので、リューズのサイズに正当性があるから破綻しない。タイムマスターの場合は、極端にデカくすることで逆に本体を小さく見せてしまうと同時に、やはり機能的に大きさに役割を与えている。実際にそういうシーンは多くないと思いますが、手袋したままリューズ操作ができるというのがウリのこの機種で、これより小さい、これよりフラットな形状にしてしまうと、ホントに手袋はめたままでは操作できないのです。

　根本に向かって丸くすぼまっていく形状のリューズだからこそ、厚いドライビンググローブつけていても引き出せる。ここが通常のファセット型とかだとうまく引き出せない。実際にお題目の操作をしてみると、その効果が実感できます。こちらはパネライほどの正当化ではありませんが、機能を与えることで形状の特異さを納得させるという手法は成功していると言えると思います。

　もちろん、このリューズ、結構痛いです。手に食い込みます。役割がいくらあっても、それはパネライほど役に立たないじゃないかという批判は、当然あるでしょう。

　実は、その通りと私も思います(^^;

　それはそうです。アチラはここが全ての出発点、と言って良いくらいの機能のデザイン化を果たした奇跡のような形状です。素晴らしいアイデアが時間をかけて洗練された結果なのですから、なまじのアイデアでは及ばないのは仕方ない。

　しかし、手巻きのタイムマスターでは、リューズは日々操作するものですから、単純にデカくて巻き上げやすいという１点のみでも、この機能性は日々の操作で否応なく実感できる。だから、少々イタイのは、この使いやすさに免じて許せてしまったりするんです。

Love at First BITE

　こういうパイロットウォッチで大型リューズというとオリスのビッグクラウン（ＢＣ）シリーズが有名ですが、ここまで極端ではありません。こんなことをやっちゃうのがクロノスイスの茶目っ気と言えるでしょう。

　で、このドデカリューズですが、他社にも相当の影響を与えたようで、今年、タイムマスターの着想の出典に該るロンジンのフリーガー時計２作品、ウィームスとリンドバーグが「マキシ・モデル」として登場（復刻？）しました。そして、ＩＷＣのビッグフリーガーも、かなり極端な形状の大型リューズを装備しますが（エッジが立っていて、タイムマスターよりも痛そう(^^;）、これも、かなりの部分でタイムマスターの影響があったのではないでしょうか。

　前述の通り、確かに出典は存在するわけですが、誰もが忘れていたようなことを復活させて現代的な解釈を与えたって点で、これはタイムマスターの個性であり、立派に「オリジナル」と主張して良い部分だと思います。

　結局は、惚れてしまえばアバタも・・・ってヤツで、丸いケースやベゼルの微細な刻み目と、リューズの細かい溝が統一感を生んでいて、私はこの大きくて痛い噛み付きリューズに、とっても親しみを覚えています(^^)　

　それに、タイムマスターのリューズは、この見た目に免じて、全て許せるようなホノボノ感があって、私は少し痛いのはガマンしてあげよう、なんて鷹揚なキモチになってきています。

　少なくとも、見た人が笑い出したくなるくらいふざけているという点で、このリューズは、揺るぎ無いタイムマスターの個性に昇華されていると、私は思っているのですよ(^_^)