2006/ 8/ 6
そろそろ世間は夏休み。ワタシのお休みはちょっと先ですが、今週は久々にカラリと晴れ上がったということで友人と川べりでバーベキューなどやってまいりました。
こういう場面だと概ね我が知人たちではナイフの見せびらかしっこになるのですが、今回、ワタシが持参したのは、久々に引かれてしまいました。だって・・・・バタフライナイフだったからです(^^;
バタフライナイフといえば、危険というのが定番的な認識であると思います。これは、バタフライナイフ使った犯罪が多発したせいで、特に少年犯罪において顕著であったため、一部の都道府県では、販売もダメってなことになっております。
ま、これはこれで仕方ないことなんでしょう。
私は、よく言われるナイフは人を殺さないっていうのは正しいと思います。他方でなんだか人殺しのための武器としてのナイフというのも存在していることも否定しません。そこで最近買ったのが、バタフライナイフという私は、とってもアブない人でしょうか。まぁ、これも否定できないな、うん(^_^;)
ただ、今回購入したのは、ちょっと一般に言われるバタフライとは随分違った、でも普通のバタフライの数倍アブなっかしいデザインのスパイダルコSPYDERFLYというヤツで、まぁ買ったというのは単にデザインがちょっと面白そうというだけなんですけどね(^^;
それだけで買うな？ はい、それはそうですが(^^;
でも、まぁブレードのカーブとか見ていて、もしかしたら、それなりに実用的に使える可能性もあるんじゃないかなと思って、値段も大したことなしということで、ちょっと手をだしてしまったのでした。で、実際に家で魚おろしたりするのに使ってみると案外という以上に便利に使える。こうして、正式にデビューとなったわけであります。
スパイダーフライ。スパイダルコという大手のナイフメーカーが作った大型のバタフライナイフで、元々スパイダルコというのは、実用的なナイフメーカーです。どっちかといえば低価格で実用性が高いというのが特徴と言えるでしょう。ちなみに、日本ではスパイダルコと表示されているようですが、アメリカ人には、スパイダーコと読まないと通じないみたいです(^^;
元々、ガーバーとかバックあたりの、どっちかというと古典的なナイフの対極にある実用一点張りナイフのメーカーであり、その特徴はワンハンドオープン可能な大型のサムホールをブレードに装備していることで、これはスパイダルコのパテントになっています。
そういうメーカーがアメリカでも決して肯定的なイメージではないバタフライ出すということで、リリース当時には話題になった製品です。個人的にはバリソンなどのバタフライナイフには特に興味は無かったのですが、これは、なんだかデザインが面白そうであったため、ちょっと試してみようか？という程度の出来心で買ってしまったのでした。
そもそも、スパイダルコという会社も、有名なところではハンニバル・レクター博士の愛用「暗殺」ナイフであり、「蜘蛛」という社章からも、どこかしらキケンな印象が否めない。アブなそうなセレーション一杯のフックブレードナイフなんてのは、確かに一見するとキケンそうであります。
バタフライ・スパイダルコが合体したわけですから、そりゃぁキケンそのもののナイフというしかないでしょうか。クモにとらわれたチョウチョ これもまたキケンそのもののイメージであります。
しかし、スパイダルコナイフというのが、実は見た目二の次、実用性第一のナイフであるわけで、そのスパイダルコが、カッコだけでアブないだけのバタフライ作るのかというと、そういうものではないらしく、彼らにとっては、結構自然な流れで作ったモノということになるようなのです。
バタフライナイフというのは、そもそもフィリピンあたりのナイフですが、フォールディングナイフの元祖であるという見方もあります。ロックバックとかスリップジョイントなどの精密加工が難しい技術水準にあって、握力そのものでロックするという非常に高度な工夫を秘めたナイフであったわけです。
日本では肥後の守みたいなのがありますし、同様の形状の折り畳みナイフはシェフィールドなどにも存在しますが、当時のこうした折り畳みナイフには、ロックの類は全く存在しません。スリップジョイントすら無い時代ですから、折り畳みはキケンそのもの。しかし、かといって、シースナイフではキケンなケースもあるわけで、そういう時代にあって、バタフライナイフというのは、かなり画期的なメカニズムだったのではと予想します。
実際、肥後守など使うとわかりますが、日常持ち歩くナイフとしては、モノすごく危険です。なんせ閉じた状態でも開いた状態でもブレードは固定されない。不意の開閉で怪我する可能性は高く、これを防ぐためにナイフのロックメカニズムは進歩してきたのだと思います。
しかし、バタフライナイフは、特にロックレバーやストラップ付のものは閉じた状態・開いた状態で、いずれも固定されます。特に開いた状態ではナイフを握っている限り完璧に「ロック」が働いていますよね。
つまり、開いて自分自身の握力で固定する。これは、当時の折り畳みナイフとしては革命的なハナシでしょう。
更に、木に登ったりした時のためにワンハンドでの開閉が可能。見た目とか、その後の使われ方は別として、合理性に支えられた形状であり、その点ではカランビットと似ているかもしれません。要するに、アブなっかしいイメージも後付でしかなく、実態は、合理的な形状と存在意義のある道具ナイフであったわけです。
だから、実用系メーカーのスパイダルコが作るのは、全く不自然ではないわけですね。元々、スパイダルコのパテントのサムホールデザイン自体、実用性能を損なうことなく片手操作を可能にしたものです。究極のワンハンドオープンフォルダーと考えれば、バタフライナイフに行き着くのは当然かもしれない。
余談ですが、スパイダルコのサムホール付ブレードのデザインは、とても実用的です。というのも、サムスタッド付きのデザインだと、例えばブレードの全長を使った大きな野菜とか肉の固まりを切る時に、このスタッドが引っかかってしまうのです。
これを回避するにはオープン時にサムスタッドがボルスターに密着するデザインにする必要がありますが、そういうデザインを採用しているナイフの多くは、オープンの動作がやりにくいです。
ブレードに大きな穴を開けるので強度が落ちるという批判的な意見もありますが、サムスタッドもサイズは小さいとはいえ取り付け部分に穴あけています。ワタシは、普段は片手オープンの必要を感じる作業は無いため普通のネイルマークのついたブレードで十分だと考えますが、もしワンハンドのタイプが必要になるとすれば、スパイダルコ選ぶでしょう。
ウィリアムヘンリーの仕上げや形状に惹かれながら、どうしても手を出せない理由というのも、このサムスタッドの存在であり、ナイフを使うという点で考えれば、スパイダルコのパテントは圧倒的な優位性を持っていると思います。
そういう会社の作るものですから、SPYDERFLYも、とても実用的に仕上がっています。
カランビットにしてもそうなのですが、その土地、その場所に根ざした形状というものがあって、たまたまその特徴の一つを伸ばして違った使い方をするというにすぎない。言ってみれば鎖鎌なんてのと同じで、本来、実用的な道具が別の使い方を与えられたにすぎないと。
バタフライナイフが危険視される理由の一つは、間違いなくワンハンドオープンが可能という点にあったわけですが、スパイダルコ以降の特にライナーロック使うナイフの多くはワンハンドオープンがラクな設計になっています。まして、最近はブレードを９０度まで起こすとあとはスプリングで全開にしてくれるアシストオープン機構が開発されており、バタフライのみを危険視する理由は一つなくなりました。
ただ、ライナーロックのフォールディングを私が好まない大きな理由は、ロックバックやAXISロックみたいなドロップピン式のロックに比べて強い衝撃でロックが外れやすいというのもあるのですが、もう一つ、閉じる時にライナーを押している親指がブレードの回転方向にあってケガする可能性があるからなのです（実際、やっちゃった人も見ていますので(^^;）。
この点、バタフライはコツが必要であっても片手で開閉ともに出来る。そもそも木に上って片手で使えるようにという生活ナイフですので、片手操作に関しては非常に洗練されています。カランビットもそうですが、あれは木の実を切り落とすとか魚の内臓落とすのに便利なナイフなのでありまして、東南アジアの生活必需品としてのナイフには、生活に根ざした利便性が備わっている。
長年、そうして使われてきたのが、たまたま、この数年、キケンさだけが強調されてきたにすぎないのだと思いますが、本来の使い方に従う限り、バタフライナイフも、長年使われた刃物なりの合理性というものを、ちゃんと備えているのだと思います。
そういう前提で見れば、SPYDERFLYは良くできてます。まず、ワンハンドオープンのやりやすさ。片手で強くハンドル握るとロックがはずれますが、そのロックバーは、他の多くのバタフライナイフと違って開いた状態ではかかりません。従って使う時は正しくしっかり握らないと使えない。役に立たない。
また、バタフライの危険な印象を強くしている開閉時のカキカキという金属音も、ハンドル同士が基本的にぶつからない形状のデザインであり静かに開閉できます。ちょっとしたことですが、これだけでもかなり印象が違ってきます。
また、スピアポイントのリカーブブレードは、一見すると危険そうですが、見た目とは裏腹に使えるブレード形状でした。それに、初期モデルはＶＧ１０でしたがセカンドロットあたりから伝統的なさびない刃物鋼４４０Ｃに変更されています。４４０Ｃは研ぎやすくさびにくい実績豊富な刃物鋼であり、実用ナイフに最適の素材ですが、やたら堅い鋼材が重視される中で、これは実用重視として評価されるべきものなのです。
丸鶏一羽買ってきて切り分けるという使い方すると、このナイフは、かなり使いやすかったです。反り返ったブレイド形状がスキナーみたいで表皮あたりに浅く切れ目入れる使い方では大変に使いやすい。厚みがあってしっかり握れば関節あたりをコジってはずすのにも無理なく使える。このあたり、ちゃんとナイフの機能を考えてデザインしている。
しっかりとした実用性に支えられた形状というのは、形そのものが収まるべきカタチに自然に収まっており無理がない。こういうナイフを作らせると、スパイダルコという会社は、非常にうまいなぁと感心するしかありません。
ナイフそのものは、日本の会社で作っているようですが、日本のナイフメーカーは、なかなかこういう実用に根ざした素直なカタチというものを作れない。確かにスパイダルコのナイフには、ちょっと安っぽく感じられるものも多いのですが、実用品としての合理性があり、だからこそ支持されるのでしょう。
ちゃんと工夫して作れば、バタフライナイフは、こんなに便利。ちょっと、バタフライナイフを見直すキッカケにもなりそうな気がしています。
こういうのを見ると、バタフライナイフだからキケンといった議論には、大いに疑問を感じます。そもそもバタフライが嫌われた理由というのは、限られた事件に使われたという事実と、世に出回っていたバタフライナイフお多くが非常に貧弱な作りで、それこそ「刃物」としての実用性を備えていなかったという事情があるのだと思います。
勢い、ただ「突き刺すだけ」のモノと見られちゃったってことなのでしょう。
しかし、バタフライナイフは長年培われてきた実用性に根差す合理的なカタチである。それを延ばすための工夫を与えて、ちゃんとした作りで磨き上げ、結果として従来のイメージを覆すバタフライを送り出すことになった。
こういうのは、ナイフを、刃物を、日常的に使い込み使いこなし自分なりの一つの見識というものを持たないと、実現できない。単にブームや流行でモノ作るようなお手軽な姿勢からは、こうしたモノは、なかなか生まれてこないと思うのです。ベンチメイドとかスパイダルコとか、アメリカの実用系ナイフメーカーというのは、こういう実用性に根ざした優れたナイフを数多送り出してくれている。そのラインにあるからこそ、単にキケン物というだけの存在にはならない。
実用的に日常的に、最もベーシックな道具の一つである刃物を使いこなしていないと生まれない感覚により送り出された一つの優れた道具と、一面的な使い方で見て排除しようという認識と、どちらが物事を創造的な方向に導いてくれるかは明白であり、そうした道具感覚に根ざしたシンプルな自分の感覚を信じたモノ作りが出来ないうちは、なかなかアメリカンでアバウトなモノ作りにも追いつくことは出来ないぞと思うのです。
実際には、このスパイダーフライも製造は日本でやってるらしいですが、こういう実用的な危険物を日本で「デザイン」できるようにならんうちは、まだまだ日本のモノ作りにも改善の余地が山ほどあると考えてしまったり。少なくとも、キケンだから排除しておけばいいやという意識からは何も生まれない、まずは使ってみることという至極当たり前の価値判断のルールを再認識させてくれた一本でした。
しかし、バタフライナイフはカバンに入れて携行というのもダメなことがありますので、一応ご注意くださいませ(^^;
逮捕されちゃいますので、警告だけはしておきます(^^;