Restarted
2015/8/2
一応、一年前に一周回ったはずだったのですが。
Graham Razelネタです。またです。そうです、ごめんなさい、またです。一応、一周して収まるべきところに収まったハズだったのですが、しばらくアウトドア系イベントで使うと、やはり気になる刃もちの悪さ。いや、元々気になっていた9Cr13MoVの最低最悪なのはもちろんのことですが（いや、もちろんてのもアレなんですが）今まで「そこまでは悪くないよなぁ」と思って使ってたCRKT FoldingRazelの刃もちが、ちょっと耐え難くなってきた。やはり、キッカケは「一周回って」しまったことでした。
まぁ、元々硬さでは定評のZDP189使用のSpyderco Endura使っていて、これは別格だと思っていたのですが、あちこち寄り道する中で試した鋼材が、なかなか「あ、これいいんじゃない？」というものが多く、それに比べて相対的に9Cr/8Crのダメっぷりが際立ってきてしまったのです。
いや、どこがダメって、もう塊り肉をある程度捌いてみれば明らかですよね。
今現在、中国産鋼材9Cr/8Crは、非常に多くの実用系ナイフメーカーの製品に採用されています。CRKTはもちろんのこと、KershawとかGERBERとかBokerとか、一般的な意味での実用性重視のナイフメーカが多く採用しているわけでして、かつての440Cくらいの地位は確保しているように思います。この長ったらしい名前のイミがワタシはずっと理解できてなかったんですが、どうも９％クローム・１３％モリブデン＋若干のヴァナディウムという、どうも素材の組成表示らしい。それは失礼、わりとわかりやすいものだったんですねと思い、これに近い素材を見ると9Crがアメリカ産でいえば440C、日本で言えばAUS8あたりに相当するらしい、それなりの鋼材らしい。てことは、つまり、8Crは420HCとかAUS6あたりに相当するんだろうということになります。
だとすれば、そんなに悪くないジャンと思うのが一般ですが・・・・
ダメです。少なくとも9CrのStubby Pocket Razelの段階で、まずハナシになりません。普通に塊り肉バラす場合に、同じ量目の塊りであればヤスキ銀紙一号のFoldingHunterなら平然とさばけます。154CMやATS34も全く問題ないでしょう。対して440CとかAUS8も問題にはならんでしょう。実際、かつてBuck110で半年以上砥石あてずに普通にナイフとして使い込んだことがありますので間違いないです。ところが9Cr/8Crでは、同じ量でも途中で一回セラミックシャープナー当てないと使い物にならないと思います。成分が近いらしいのに、何が問題なのか、正直ワタシにはわかりません。熱処理なのか素材なのかは不明です。が、いくつか使ってみた経験からして、少なくとも9Crはナイフに使うべき素材ではなく、多少はマシな8Crにしても420やAUS6には全く及ばず、たぶんすぐに研ぎ減りしてしまうだろうってことです。この点、買ってから一番ハードな二十台・三十台のアウトドア利用を難なくこなしたFolding Hunterのヤスキ銀紙一号は、傑出した素材であったというべきなんでしょう。
いや、本気で、この間にKershawのEmersonデザインのシリーズをひとつ買ったのですが、初回使って１０分で怒り感じて投げ捨てました。マジだめです。これをナイフ鋼材に使うというのは、犯罪といってもいい。いや、硬度も粘りも、そんなに悪くないと思えるのに、なぜこう刃もちが全くダメなんだと、本気で鋼材作ったメーカーに乗り込んで説教したくなるレベル。おそらくは熱処理がダメで、これをBoss社あたりで処理すりゃ、まだマシなのかもしれないとは思いますが、少なくとも質的に劣る中華鋼材にそんな研究の手間かける人はおらんでしょう、うん。
ありとあらゆる要素が問題ないCRKTのRazelシリーズですが、ここだけはお話にならない。
むしろカクゴ決めたからこそ、ここが気になり、だから頑張ってご本家Graham KnivesのMidtechのシリーズを狙ってたわけなんですね。
しかし、まぁなかなか手に入らない。
そこで、ふと目に留まったのがMantisのMT-7.2 Folding PRY2というヤツでした。
Mantisは、以前カランビット選びのときに候補に挙がったメーカーでしたが、結局見送り。なんで見送ったって、まぁカンタンに言えば作りこみが雑というか、ちょっと頑丈さとか堅牢性に欠ける感じだったから。まぁ実際に安いのだから仕方ない。その後に選んだQuartermasterのQTR-2 Baracusは見ないで買いましたが、コレ買う前に実際に店頭で見たMantis Mk-3は開閉の感触が雑というかザラザラしている感じで金属加工のレベルの低さが顕著であり、ちょっとイマイチだなぁ、ううん・・・という感じだったんです。だから、あまり良い印象のメーカーでもなかったのですが、PRYナイフも作っていると知って、ちょっと興味がわきました。まして、鋼材がS30Vということで。
S30Vは組成的にはATS34に近いと言われる、まぁ高級な素材で、当初疑問も多いといわれた粉末冶金製法の鋼材も実用テストを経て安定した評価を得るようになっており、その中でも耐食性と硬度のバランスが良いS30Vはカスタムメーカーでも多く採用される高級素材、これなら、もしかしなくても8Crへの不満を解消してくれるんじゃないかというのがひとつ。もうひとつは、全体に大きく思いCRKT Folding Razelに比べて薄く軽いつくりでした。ワタシ自身は、Razelに一番期待しているのはPRY性能よりもフィールド菜切り包丁的な位置でありますため、薄いのはマイナスにはならない。
で、これを知ったのが二年近く前なんですが、ためらってました。元々、MantisにはFoldingPRYという製品がありましたが、これは普通のタントーブレードの折りたたみナイフで、個人的には全く興味がなかったのですが、PRYナイフらしいコジあけ性能を重視したシリーズ２が登場すると、これがかなりRazelに近いブレード形状で、その上に上級の鋼材使用で、それでいてお値段は格安ということで、ちょっと迷っていたわけです。
ただ、今まで手を出さずに来たのは、個人的には重視しているRazelでいえばチゼルチップのあたる先端部が「切れる」のか、というのがわからなかったからです。
プライツール系ナイフの場合、ここが刃付けされて「いない」というのは、かなりの割合であります。CRKTのMAK-1なんてレスキューナイフがそうですしBokerのCOPツールなんてのもそうで、ここはあくまで「コジあけ」ツールであって、カッティングエッジではないという設計になっています。そういう部分で、このコはどうなんだろうと思って、あちこち見ていましたが、そもそもココ
に刃付けがされているのか否かというのが、全く情報がない。そもそも、なぜか日本ではこのナイフ扱った業者というのがなく、Mantisという日本に正規ディーラーあるのかないのかわからないメーカーのナイフと考えても、扱っている業者ひとつ探し出せませんでした。本家メーカーがYouTubeに上げている紹介動画でも、ここが切れるのかどうかという情報は皆無、更に、このナイフそのものが（やはりRazel同様その鈍重なルックスからか）不人気らしく個人でアップしている動画すら数限られている。ううむ、ここにエッジないと意味はないよなぁ。Razel代替を求めるワタシには、そこは譲れないポイントなんです。
そういって悩んでいたわけですが、やはり一周戻ってCRKTのRazelに復帰して不満とストレス貯めまくった状況でしたので、不人気モデルラブという判官贔屓傾向が働いてしまいまして、ここはいっちょ買ってみるかということでお取り寄せをお願いしてしまったわけなのです。てなことで、おそらく、日本で初の（少なくともワタシはオーナーを探し出せませんでした）Mantis MT-7.2A FoldingPRY2であります。
ところで、Mantisというメーカーですが、これが面白いことにというか、どうも以前ご紹介のBaracusのQuartermasterさんちと親戚関係なんじゃないかと思われます。
今回、いろいろと比較のイミもあって以前にKarambit比較で見送ったMantisのMk-3の再生産モデル”Encore”と一緒に注文したのですが、これがもう、デザイン的に見れば完全にご兄弟^^;
ほかにPitBossとかバタフライカランビットのVu-jaDeなどQTRさんちと同じパーツ使って素材違いで仕上げてるんじゃないかっていうくらいのモデルが存在しており、これを見た瞬間にワタシの中ではKershawに対するZeroTorrerance的な上位メーカーがQTRなんだろうという確信を抱いております。FP2についていえば、どうも解説読んでいるとアメリカ生産らしい。TEXAS MADEをウリにしているQTRと似た感じで、そういう意味でも弟メーカーだと思ってよいのかもしれません。
で、まず、何より気になっていた「先端部は切れるのか」という問題。
結論から言いますと、おおむね「ハイ」だといえます！
正確に言えば「モノすごくシャープなFalse Edge」というところで、そのままだと「カッティングエッジ」というほどではありません。指の腹に軽く当てても切れないけれども強く当てると血がにじむとか、まぁそういう感じ。ただ、このパズルのような面削り施したBeshEdgeという先端ですが、見た目の複雑さとは裏腹の、ノミのようなシンプルな平面ですので、平面の仕上げ砥石に当てて何回か研ぐだけで十分に切れるようになります。具体的にはこんな感じで
研げば普通に薄紙切れますので、ここは十分な性能を持つ「エッジ」というべきでしょう。実際問題、ほぼRazel的な使い方には対応しているといってよいと思います。おそらく、初期の状態ではポケット内で指を傷つけたりしないように意図的にシャープな刃付けをしていないのではと予想します。実際、この上面エッジが、時々指かすってアブないのは確かなので。
90度から更に鋭角というRazelとは違い、若干鈍角になりますが、ほぼ90度に近いエッジの交差から、かなり悪くない感触のRazelに近い使用感が得られることになります。
で、ナイフ全体のハナシですが、ワタシにとっては、そこが些か残念な結果に終わっています。
全体に、悪くありません。ある意味では、ということになりますがフィールド折りたたみ菜切り包丁という使い方に限れば、Razel以上の能力を発揮する場面があります。それは、ブレードが薄く、そして全体の作りも薄いことによるハンドリングの容易さと、チゼルグラインドによる食い込みのよさに起因するお料理ツールとしての美点ということになります。
Razelが、メインブレード部分は出来るだけストレートな方が（つまりFoldingRazelみたいにカーブついてない方が）トータルでは使いやすいとは以前にも書きました。多少のカーブは包丁的なイミでは使いやすさにもつながってますが、基本的にはRazelのブレード形状ではまっすぐなメインブレードが美点になるというのがワタシ個人の感想です。その部分からすれば、完全ストレートのまっすぐなブレードと、軽くひねって先端部で「突き」切れるRazelのブレードの組み合わせに近いことはFP2でも十分に可能です。いや、少なくとも、ここにS30Vという優れた鋼材による刃もちのよさが加われば、かなりの部分でCRKTを凌ぐことは間違いないのです。
現実、ココしばらくはこっちのFP2の出番が多かったのは確かなんですよね。
まぁ、コレでいいのかなぁ・・・少なくともフィールド菜切りとしては、こっちがいいのかもなぁ、と思えてきたわけですが・・・
いろいろと調子に乗って荒い使い方をしだすと気になる部分が出てきました。まず最初は、元々Razelのときにも気になる部分として指摘しておいたサムスタット（このモデルの場合はサムプレートですね）が邪魔なこと。FoldingRazelでも書いた通り、菜切り的に野菜とか特にキャベツなんかを千切りにすると、このオープン時の指のひっかっかり確保している「でっぱり」が気になる。ここがカットしている対象物にあたり、エッジをフルに使えない。この点で、ネールマークで開く古典的なナイフはそういう問題は全くありません。私にとってFoldingRazelの鋼材と並ぶ欠点がココだったんです。Razelなら、まだしも邪魔にならないこれが、FP２では、かなり「ジャマになる」位置にすえつけられている。KershawのEmersonシリーズに比べれば出っ張りが少ない（プレートが円盤形状ではなくクサビ状に削ってある）のですが、実用にすると、これ、かなり使い心地左右するくらいに気になります。
まったく、ここばっかりは、なかなかうまくいきませんなぁと＾＾；
で、そういう状態だと、もうひとつ気になってくるのは、実は本来の「PRYツール」、コジ開け道具としての性能です。
見ての通り
このFP2、側面から見る以上に、薄いのです。ライナーも薄ければ、メインブレードも薄い。たぶん、2.5mm程度で薄手に感じるEndura並に薄く、ジェントルマンナイフのシルバーナイトに比べても厚みは感じさせない。薄いというのは、フィールド菜切り包丁としては美点でもあります。食材などカットするには間違いなく優れています。
が
一方で、もしコレをワタシがかつてFoldingRazel壊したときのように、お子さん用のベッドの解体に使ったらどうなるか。まぁ、ほぼ確実に、数分でナイフ壊れます。鋼材は優れていますが、そもそもそういう「叩きつける」使い方では粘りと強度が優先なわけで、そういう部分でいえば、元々粉末鋼で弱いのに加え、薄くて、そしてライナー部分もFoldingRazelに比べれば半分以下の厚みです。更にはオープン時の（気休め程度とはいえ）ロック機構もない。実際にやったことはないですが、手に持った印象で言いますと、非常に残念ですが、ワタシはコレを本来のPRYツールとして使う度胸がありません。この鋭い先端部をドアの隙間にネジ込んで、コジったら、かなりの確立でナイフの軸のほうがバキっと行きそうな気がするのですね。
FoldingRazelの美点というのは、結局のところ、そういう使い方しても大丈夫なんじゃ？と「誤解」させてくれるような手ごたえだったのではないかと、今になって思えたりするわけなんですよね。
さぁ、こうなると、もういけません。全体に薄いのは良いのですが、Razelのコロンと丸っこくて握りやすいハンドルに比べると、どこかカクカクしたタクティカル系で握り心地が良くない。フルにライナーをカバーしているのは良いですし、ライナーロックも見た目に比べれば、ブレードバック強く打ち付けても外れる気配もなくガチンとかみこんでいるわけですが、どうも「ひ弱」に感じられてしまう。
ブレードの刃もちは、個人的な意見とかいうこともなく、もう比べちゃいけないくらいに8Crより上です。ていうか、比べるのがアホらしくなります。ちゃんと研いで持ち出せば、FP2は一泊二日のアウトドアくらいラクにこなすでしょう。一方、Folding Razelはタッチアップツールに２〜３度はお世話にならないと使い物になりますまい。この薄さでも全く問題はないのですが、やはり「使い方」が限られる。ハンドアックス的に使えるフォールダーという稀有なRazelの存在感は、やはりこの「結構優れた」ナイフでも、まだ足りなかったというべきなんでしょう。
細かいところになりますが
この部分、Razelではスムースに閉じられているのですが、なんでこんな「指を噛みそうな」形状にしているのかというと、ここを栓抜きに使えということらしい。いや、いまどき王冠の飲み物なんてそんなにあるわけないだろうと思うのは日本人らしく、アメリカンな方面では今でも王冠のビン飲料は一般的らしく、特にビールはかなりの割合でビンらしい。それもあるのかどうかは知りませんが、どうもMantis製品には栓抜き機能つきがやたらと多く、このFP2以外でもChurchkeyとかいう小型ナイフがあったりしますし、ほかのモデルでも栓抜き機能ついていたりして、挙句にはBottleneckとかいう栓抜きに使えるバタフライナイフというナゾなものまで作っていたりします。
おい、キミら、そんなに瓶ビール好きか、まぁ確かに缶と瓶で同じビールでも味が違うのは確かなんだけどさというのはありますけれども、少なくともポケットクリップがティップダウン形状しか選べないこのモデルでは、ポケットキャリーすれば抜き出す時にここが引っかかってEmersonのWAVEフックの逆版やってくださるなどの面倒も生じてしまい、とても「良い発想」と褒める気にはなりにくい。ポケットキャリーのしやすさ、抜き出しやすさでは特製テールクリップつきRazelとは雲泥といっていいレベルなわけです。
加えて、個人的にはほとんどイミのない装備と確信しております「スカルクラッシャー」がハンドルエンドについております。グラスブレーカーとか言われてクルマのガラスなどカチ割るのに使うらしいですが、そもそもライナーの固い面を叩きつければガラスくらいカンタンに砕けますし、この余計なトンがった出っ張りがティップダウンのポケットキャリー状態ではポケットの底を突き破ってしまうでしょう。特にジーンズなどのタイトなの履いてると避けがたいと思えるわけで、ダブルパンチ食らわせてくれる。
更に、この形状ですとハンドル逆手に持って先端のチゼルチップを叩き込むような場面で、親指の置き場になってほしいハンドルエンドがこのトガったチップでジャマされて力がかけにくい。なんで、こういう百害あって一利なしのパーツつけるかなぁ・・・と本気でタメ息でます。このあたりはGrahamさんちではDevilTailとかいって尖ったチップ用意するのではなく軽く角張ったパーツ配するだけで処理しており、ハンマー的に使うならそれで十分という割り切りが見えます。
このあたりも含めて、鋼材は圧倒、ブレード形状は互角、しかしナイフ全体の完成度では、非常に残念ながら値段半分以下のFolding Razelに遠く及ばないというのが、現時点でのワタクシの感想なわけであります。
勘違いいただくと困るのは、全体的には出来はいいです。
ここまでの荒事を想定しない限り、少なくとも「ナイフとしての」完成度は、ある意味でCRKTのRazelよりは上かもしれません。当たり前にナイフとして使う限りにおいては、これは良い鋼材を使った優れたデザインのナイフであるといえます。少なくともですが、先端部を「叩き込む」ような使い方には、刺突能力はRazelより確実に上ですが、その機能を支えるBeshWedgeの形状は余り厚みがあると成り立たないというのも事実でして、そのあたりのバランス点としては、これはRazelとは違った一つの完成形態なのだとも思えます。
Razelほどの使い勝手を期待しなければ、です。
ううむ、結局のところ、良いナイフに出会ったという満足感はありますし、こういうブレード形状のナイフの使い勝手については、今までも何度も書いてきましたが、ナイフ好きであればこそ、一度試していただきたいと思える、そういう要素は確実に満たしていると思います。緊急用のバックパックにほうりこんでおくナイフとしては申し分のない機能性であり、これが現在の為替相場で一万しない価格で手に入るというのは、個人的にはバーゲンセールというべきだと思います。少なくともRazelに比べて多くの人にとってナイフの基本性能を左右する「鋼材」の部分で比べようがないほどの差がありますので、一般的な意味でいえば、Razelよりもオススメ度合いは高いということになるのだと思っております。
単純に、ワタシのニーズとは、ちょっと違ったというだけなんですよ。
あぁ、結局、また今回もイイところまで行ったのにわずかに及ばなかった。どうもワタシにとって、Razelの壁は大きく高いみたいです。
そこで、まぁすでに次の手は打たれているので、その辺りは次のネタとなるわけですね＾＾；
